退職まで人に頼む時代!?

退職代行サービスという新たなビジネスが注目されています。近年さまざまなサービスが生まれてきましたが、いよいよ退職までお金を払って他人に頼む時代になってきました。退職はビジネスになるのか。退職代行サービスの現状と背景について考えてみました。

仕事辞めたいけど・・・辞められない

「仕事を辞めたいけど辞められない」という人はたくさんいるのではないでしょうか。「退職が後ろめたい」「辞めると会社と揉めそう」「とりあえず今の仕事の区切りがついてから・・・」など、退職を先送りにする理由は人それぞれあると思います

そして、そうこう考えているうちにズルズル時間が過ぎて結局辞められない。そういった人は多いのではないでしょうか。退職には迷いがつきものです。そして退職は大きなストレスを伴います。なかなか踏み切れないのは当然でしょう。

こうした人をターゲットとしたビジネスが今注目をあびています。「退職代行」です。
退職代行とは、代行業者が本人に代わって退職を会社に連絡して退職手続を代行してくれるというものです。業者が自分に代わって退職を会社に伝えてくれ手続もしてくれる。退職に伴うストレスを引受けてくれます。

最近、こうした退職代行ビジネスが広がっているようです。

退職トラブル増加で広がる代行ビジネス!?

インターネットで検索すると退職代行サービスの広告がたくさん見つかります。「正社員5万円」「パートアルバイト3万円」等、さまざまな代行業者が広告をだしています。さらには業者だけでなく法律事務所も広告をだしています。弁護士も代行サービスに参入しているようです。

こうした退職代行の需要は高く、ある業者では月に300件程度の依頼があるとのことです。意外と退職を他人に依頼したいという人は多いようです。

一昔前には退職を他人に頼むなど考えもしなかったのに、なぜ、このようなビジネスが広がったのでしょう。

その背景には、退職に伴うトラブルの増加があるようです。労働局によると、近年、全国的に退職に関する相談が増加しており、その数はこの10年で2倍以上にもなっているとのことです。こうした退職に伴うトラブルの増加から退職代行サービスの需要は高まっているようです。

では、なぜ退職がトラブルになるのでしょう。

終身雇用が生み出す退職トラブル

その要因として日本社会に定着している終身雇用があるといえます。日本では古くから一度会社に就職すれば定年まで働く。退職するのは定年を迎えたとき。みんなに祝福されて送り出される。その後に老後の人生を楽しむ。それが日本社会に定着してきました。

そして、終身雇用制度においては新卒入社した社員は手厚く扱われます。入社初期の若手は多少の失敗も大目に見てもらい、困難な仕事を割り当てられることもない。さまざまな研修にも参加させてもらえる。将来的に活躍してもらうために会社は損失覚悟で人材に投資するのです。

それなのに投資が終わった段階で辞められるとなると投下資本が回収できないということになります。例えば、若手の社員を海外留学させて戻ってきたら退職するなどとことになれば会社にとって損害なのは明確でしょう。

会社は30年40年働くことを前提に採用しているといえるのです。近年、日本も転職市場が活発になってきたとはいえ、いまだ新卒一括採用、終身雇用の考えは根強く残っているといえます。

「会社に世話になっておきながら辞めるなんて・・・」という発想で、退職者を悪者と見る傾向が日本では強いといえます。快く退職者を見送ることができないのです。

転職市場の活性化のすきまに発生したビジネス!?

しかし、日本社会も昔とは変わり転職は常識になってきています。リクナビNEXTの調査によると、30代では約5割、40代では約6割の人が転職を経験しています。つまり、社会人の約半数の人が退職を経験しているのです。

社会では転職が当たり前となっている一方で、終身雇用の意識がそれほど変化しない。こうなると退職に伴うトラブルが増加することは必然といえるでしょう。そして、そこに新たなビジネスチャンスが生まれたといえるのです。

退職代行を依頼するメリットは!?

では、退職代行を依頼する理由は何でしょう。大きく2つ考えられます。

精神的負荷の軽減

退職にはストレスがつきものです。それまで構築してきた人間関係を清算するのですから、同僚や部下、上司との関係から退職を伝えるのに後ろめたさを感じます。そして、新たな人材を確保するまで会社は人手不足になります。必然的に周囲に迷惑がかかります。このため、退職を伝えることもストレスですし、その後に働くことが辛くなることが多いでしょう。

この点、第三者が介入すれば心理的な助けになります。また、会社も無茶はできません。ですから、大きなストレス軽減につながるでしょう。

有給の取得や退職後の手続等が円滑になる点

退職に際して他人が介入してくると、会社も法律を無視するわけにいきません。のちに訴えられれば代行業者が証人として機能することも考えられます。とくに弁護士が介入してくればなおさらです。

となると、有給等が残っていればすべて使える可能性もあります。仮に10日の有給を取得できれば、給料換算で15万円位の経済的利益がありますから、退職代行を5万円で依頼しても十分といえるでしょう。また、退職後には必要な書類等も代行業者を通じて取得することが可能です。辞めた会社には連絡が取りにくいので、この点も大きなメリットといえるでしょう。

退職代行のデメリットは!?

退職を業者に依頼するには会社との今後の関係を断絶させる覚悟が必要です。会社としては、辞めるなら筋を通してほしいと考えるのは当然です。これまで、組織の一員としてともに働いてきたのに辞めるとなるといきなり代行業者がでてくるのですから会社の印象は大変悪いでしょう。

今後、会社との円満な関係は期待できないでしょう。長い職業人生の中で将来的に退職した会社と関係してくる可能性はあります。そうなったときに円満に退職しなかったことが不利に働くことでしょう。長期的な視点からするとデメリットは大きいかもしれません。

また、会社の同僚や部下などとの人間関係は破壊されるでしょう。人脈もビジネスでは貴重な資産といえますので損失は大きいといえます。代行業者は、将来的な関係にまで責任を持ってくれないからです。

ブラック企業には効果的!!

以上からすると、退職代行は短期的には得るものが大きいといえますが、長期的な視点からすると、あまりよいことばかりではないように思えます。やはり、退職は人に頼むのでなく自ら会社に伝えるのがよいのではないでしょうか。

世の中には労働者を使い捨てとしか思っていないブラック企業があります。そうした会社を円満に退職することは難しいでしょう。そのときに退職代行ビジネスを利用することは賢明といえます。退職に労力を使わず早期に新たな人生を開始するのが得策です。逆にいうと、退職代行ビジネスはブラック企業に就職してしまった人のための救済制度といえるかもしれません。

そういった点からすると、退職代行ビジネスが広がっている背景にはブラック企業の増加という要因があるのかもしれません。

トップ・ミドルのための 採用から退職までの法律知識〔十四訂〕

二宮憲志

二宮憲志

40代前半、滋賀県在住、男性、元公務員、元コンサルタント、現在はフリーランス。30代は仕事をしながら勉強に励み、政治学と経済学の学位を取得。日本社会の柔軟性のなさに日々疑問を感じながら、日本の政治と経済を考えています。「言葉で日本に振動を」、そんな気持ちで発言(政say)していきます。