人手不足で非正規の待遇が改善!?正規と非正規の格差は縮まるか?

最近、どこのお店に入っても「アルバイト募集」という貼紙を見かけます。それも昔に比べ、かなりいい条件です。近年、飲食店やコンビになどを中心に人手不足が深刻化しています。雇う側は人集めのため時給を上げているようです。これは、非正規で働く人にとって望ましいことに思えます。

正規と非正規の賃金格差が問題視されていたことは記憶に新しいことですが、このまま人手不足が続いて非正規の賃金が上昇すれば格差は解消しそうです。ですが賃金は今後も上昇し続けるのでしょうか。非正規の賃金問題について考えてみました。

非正規の待遇は改善されている!?

いよいよ冬のボーナスシーズンとなり、ニュースでは大企業のボーナスが大々的に報じられています。

経団連の調査によると、今年の大企業のボーナスは95万円と過去最高を記録したといわれています。景気の回復を反映して正社員の賃金に改善の兆しが見られるようです。

ですが、ボーナスは正規だけで非正規には基本的に無縁のものです。そうなると「景気回復の恩恵は正社員だけで非正規には関係ない。非正規の待遇は改善されない。」と思いがちです。

意外と知られていないのですが、この20年間を見ると正規よりも非正規のほうが賃金は上昇しています。つまり、正社員よりも非正規のほうが待遇は改善されているのです。

厚生労働省の調査によると1995年から2015年の20年間で、一般労働者の賃金(時給換算)上昇はほぼ横ばいなのに対し、非正規(パート等)の賃金は約15%も上昇しています。この結果からすると、非正規の待遇は、この20年間で改善されてきているといえます。

人手不足が生じる構造的問題

このように改善はされてきている非正規の待遇ですが、ここにきて急速に待遇改善が進んでいます。

パーソナルキャリアの調べによると、9月のアルバイトの平均時給は1,042円と43ヶ月連続で上昇したとのことです。約4年もの間、上昇を続けているのです。

これは、少子高齢化による労働力減少に伴う人手不足が大きく影響していると思われます。とくに、高齢化の問題は大きな要因と考えられます。なぜなら、高齢者は労働力を喪失してもサービスの提供を受け続けるからです。つまり、労働力は減少してもサービスの受け手は減らないということです。これに少子化による労働力の供給減少が加わるので人手不足が深刻化するのは当然といえます。

日本の人口構造からすると、今後も数十年間は人手不足が深刻化していくのは明らかと考えられます。だとすると、非正規の賃金は今後も上昇していくかに思われます。

人手不足で賃金は上昇し続ける?

人手不足に陥った企業が人を集める方法として考えられるのが、賃金を上げることです。アルバイトやパートなどの労働者は、正社員と異なり長期的、継続的に勤務することを通常は想定していません。このため、仕事内容に対する関心は比較的低く、賃金に対する関心が高いといえます。

人を集めるのに即効性があり有効な手段は、賃金を上げることとなります。現在、人手不足で賃金が上昇し続けているのも、こうした理由によるものです。

しかし、一方で、少子高齢化により労働力が減少する中、サービスの受給者は横ばいという状況が続いていますので不均衡は続きます。

そうなると、労働力が減少し続けると必然的に賃金は上昇していくといえます。これは、人材がオークションにかけられるようなもので、賃金は無制限に上昇していくともいえます。ですが、企業は採算が取れなければ倒産してしまうのですから、利益を無視して賃金を上げ続けるわけにはいきません。

どこかの段階で賃金の上昇は止まるといえます。すなわち、企業の利益が得られない時点で賃金の上昇はストップするといえるでしょう。

サービスは低下?賃金はあがらない!?

賃金を上げられないとなると、企業は人手不足にどのように対処するのでしょうか。その方法として考えられるのがサービスを下げることです。これは日本郵便の方針がよい例です。

日本郵便といえば、アルバイトの募集の常連で、ホームページなどでは随時募集を行っていました。しかし、賃金水準は決して高くなく一般的な時給よりも少し低いという程度です。これでは人手不足の中で十分に人が集まるはずもありません。そこで、人手不足の対処として考えたのがサービスを低下させることです。

この点、日本郵便は今年の11月16日、手紙やはがきなどの郵便物について、差し出された翌日に配達することを原則廃止する方針を打ち出しました。また、土曜日の配達も中止し平日配達とする考えを示しました。つまり、日本郵便はサービスを低下させ仕事を減らすことで、人手不足に対応したのです。

非正規の待遇改善は続かない?

これは、今後あらゆる業種に起こりうる現象であると予想されます。

まず、企業は賃金上昇の限界に達したときに大きく2つの選択に直面すると思われます。1つ目が商品やサービスの値段を上げて、賃金上昇分の負担を消費者に支払ってもらうことです。2つ目は、サービスを低下させることで人手不足に相当する仕事を減らすというものです。

この点、自由競争の市場原理の下では企業は最初に価格を上げることを避けます。自ら価格をあげると価格を上げない他の企業に客を奪われてしまうからです。となると、大幅に値上げをすることは難しくなります。結果としてサービスを低下させる方法を選択する可能性は高くなります。

こうしたことからすれば、非正規の賃金上昇は長くは続かないといえるでしょう。つまり、非正規の賃金はある一定の段階で固定化されてしまうといえます。そして、人手不足はサービスの低下という方法で改善されていき、結果として、非正規の賃金上昇はそれほど期待できないということになるでしょう。

非正規という自由な働き方に魅力を感じる人も多いとは思います。しかし、正規と非正規の賃金格差は市場原理だけで改善するのは難しいようです。

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二宮憲志

二宮憲志

40代前半、滋賀県在住、男性、元公務員、元コンサルタント、現在はフリーランス。30代は仕事をしながら勉強に励み、政治学と経済学の学位を取得。日本社会の柔軟性のなさに日々疑問を感じながら、日本の政治と経済を考えています。「言葉で日本に振動を」、そんな気持ちで発言(政say)していきます。