日米地位協定はなぜ不平等と言われるのか?その背景と問題点に迫る

日本はアメリカ合衆国との間で、日米安全保障条約を締結しており、この条約に基づいて日米地位協定が定められています。しかし、日米地位協定は日本に不利な内容で、在日アメリカ軍の治外法権を認めているともいわれており、改定が求め続けられてきました。日本にとって不利な内容にも関わらず、なぜこれまで日米地位協定は改定されなかったのでしょうか。

日米地位協定とはそもそも何?歴史と全文を見る

第二次世界大戦後の1951年、日本はアメリカ合衆国のサンフランシスコにおいて、連合国とサンフランシスコ平和条約を締結しました。その際、日本は二国間協定によってアメリカ合衆国と「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」に署名をしました。

この条約は、日本が攻撃を受けた場合、アメリカ軍が日本に協力してこれに立ち向かうという内容です。また、条約はアメリカ軍が日本に駐留し続けることを認めていました。そのためアメリカ軍は在日アメリカ軍として日本に留まることになりました。

その後1952年には「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」の発行と同時に日米行政協定が調印されています。この条約は、「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」と合わせて日米安保条約とも呼ばれています。日米行政協定では、在日アメリカ軍の日本における地位および権能が取決められました。

しかし日米行政協定では、日本の刑事裁判権がアメリカ軍人やその家族などにおよばない場合があるため、不平等ではないかと指摘されています。この協定は1960年に「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」が結ばれた際に「日米地位協定」と名称が変更されましたが、刑事裁判権については改定されませんでした。

参考: 日米地位協定全文

日米地位協定における日本のメリットとは?

他国の軍が自国でない地域に駐留する場合には、一般的に地位協定が結ばれます。アメリカ軍が日本に拠点を置いて、日米安保条約に基づいて行動するためには、日米地位協定は欠かせないものです。

では日米安保条約にはどのようなメリットがあるのでしょうか。最大のメリットは強大なアメリカの軍事力によって日本が防衛できる点です。ストックホルム国際平和研究所の調べでは、2017年度のアメリカ合衆国の軍事費は6098億ドルです。これは全世界の軍事費を合計した額のおおよそ35%を占めており、アメリカ合衆国は世界で最も軍事費を使っている国であるといえます。

第二次世界大戦後、日本はどの国とも戦争状態にはなっておらず、攻撃も受けていないため、直接にアメリカ軍に保護されてはいません。しかし、日米安保条約があるので日本への攻撃はアメリカ軍による報復行為につながる可能性があります。そのためアメリカ軍の存在は大きな抑止力となっているといえます。

また、抑止力としてアメリカ軍が存在しているので、日本は軍事費に大きなお金を使う必要がありません。本来、国防には莫大なお金が必要ですが、日本の軍事費はGDPのおよそ0.9%と、主要先進国の中ではかなり低い数値になっています。

治外法権?!日米地位協定の問題点とは?

アメリカ軍の駐留と日米安保条約の維持に日米地位協定は必要なものです。しかし、そこには多くの問題点やデメリットがあります。

例えば「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」の第6条には「国際の平和及び安全の維持に寄与する」ため「日本国において施設及び区域を使用することを許される」と記されています。これは全土基地方式と呼ばれており、アメリカ軍は日本全国どこにでも基地を置くことが可能です。

また日米地位協定ではこの問題に関して、日米で合同委員会を設置して協議する旨記されていますが、その協議内容に関しては非公開となっています。

日米地位協定第3条によって、アメリカ軍は基地の運営や管理など、必要な全ての措置を独自でとれます。基地や施設の排他的な利用権が認められているので、日本政府の監視がおよびません。また、経済的な特権が在日アメリカ軍には認められており、物品税や揮発油税などが免除されています。

さらに、日本から在日アメリカ軍への経済的な支出として2,000億円を超す予算※が計上されていました。

在日米軍駐留経費負担の推移(歳出ベース)出典: 防衛省HP

※防衛予算に計上される在日米軍駐留経費負担、いわゆる「思いやり予算」平成5年度~20年度まで歳出ベースで2,000億円を超えている。平成30年度1,968億円

このようなさまざまな特権が在日アメリカ軍には認められており、日米地位協定への不信感を産む要因となっています。その特権の中でも、アメリカ軍人や軍属およびその家族などに日本の刑事裁判権が及ばないことは、最も大きな問題です。

沖縄でたびたび起こる凄惨な事件との関連

アメリカ軍が日本に駐留すると、アメリカ軍の軍関係者も日本で生活をしなければなりません。日本で生活をするアメリカ軍人やその家族は日米地位協定があるため、事件を起こしても日本で裁くことは大変難しいのが実情です。

1995年に沖縄で起きた、アメリカ海兵隊員が女子小学生を拉致し集団で暴行をおこなった事件では、実行犯が日本に引き渡されませんでした。この事件は犯人への処罰感情と反基地感情が相まって、大きな社会問題に発展しました。このような問題は沖縄を中心に、21世紀に入ってからも多く起きています。

2004年には沖縄国際大学にアメリカ軍ヘリコプターが墜落しました。この事件では日米地位協定が拡大解釈され、事故現場もアメリカ軍管轄地として取り扱われました。そのため十分な捜査が行われず、公訴時効期間内に事件の全容が解明できていません。このような日米地位協定の拡大解釈は他の事件にも影を落としています。

2002年にアメリカ軍整備兵が窃盗容疑で逮捕された事案では、「急使」の身分証明書を持っていたことを理由に、アメリカ軍は事件が公務中に起きたものとしました。その結果、逮捕されていた容疑者は釈放されています。

2008年に海兵隊員の家族が窃盗で現行犯逮捕された際には、アメリカ軍は容疑者を警察に引き渡さず、アメリカ軍基地に連れて帰りました。

本来ならば日米地位協定はアメリカ軍兵士が公務執行中に起こした事件について、アメリカ軍がその第1次裁判権を持つという内容です。しかし、被疑者が公務中だったかはアメリカ軍が裁定するため、アメリカ軍兵士が事件を起こしても、すぐには身柄が日本に引き渡されません。そのため、事件の捜査が難しくなっているのです。

日米地位協定はなぜ改定されないのか

日米地位協定は不平等な取決めがされているとして、アメリカ軍基地が置かれている地域を中心に社会問題となっています。しかし、なぜ日米地位協定はこれまで改定されなかったのでしょうか。

日米地位協定の基礎となる日米安保条約は、日本の安全保障を考える上で大きな役割を担っています。そして在日アメリカ軍が滞りなく活動するためには、日米地位協定は欠かせません。

また、地位協定は在日アメリカ軍の地位や権能についての取決めたものです。それは日本とアメリカ合衆国のどちらが有利であるかを決めるものではありません。そのため日本とアメリカ合衆国の両国政府は日米地位協定の改正を必要と考えていないという見解です。

さらに日本の刑事司法制度の不備も日米地位協定を改定する妨げになっていると考えられています。日本では逮捕された被疑者は、取り調べの際に弁護士を立ち会わせられません。くわえて、その状態で最長23日間の勾留が可能です。これは世界的には珍しい司法制度であり、容疑者の権利保護に不十分であると指摘されています。

日米地位協定を改定すると、在日アメリカ軍で働く者が逮捕されたときに、権利保護が不十分になるおそれがあります。このような理由から、日米地位協定の改定は進んでいまないというのが現状なのです。

日本人なら知っておきたい 日米地位協定

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。