世界的に今、車のEVシフトが進行しています。従来のガソリン車やディーゼル車から電気自動車への切り替えです。製造技術が比較的簡単で、何よりCO2を排出しない、地球環境にやさしい点が評価されています。日本でも自動車メーカーの間でEVシフトが進んでいますが、とりわけEVシフトを地域の活性化に活かす取組が注目されています。
岡山県が全国初の試みとして三菱自動車工業と連携して、技術開発や産業振興を通じて地域活性化を図る動きです。世界的なEVシフトの流れをウオッチしながら、国内の動き、地域活性化策への活用などを追っていきます。
中国、英国、フランスが電動車、燃料電池車に切り替え
EVシフトの動きとして注目されたのは、中国の動きです。中国は、国内で生産・輸入する新車を、すべて電動車に切り替える方針を表明し、2019年から実施することにしています。また、英国やフランスでも、国内におけるガソリン車とディーゼル車の販売を2040年までに終了、電動車または燃料電池車に切り替える政策を打ち出しました。
日本では、EVシフトの動きは中国、英国、フランスなどに比べ遅れましたが、去る7月24日、経済産業省の「自動車新時代戦略会議」での世耕弘成経済産業大臣の発言がEVシフトを加速することになりました。
「自動車新時代戦略会議」は日本の自動車産業の国際競争力強化を図る狙いで設置されたもので、世耕大臣の発言は「自動車産業の生きる道は、自動車の電動化であり、2050年には、すべての自動車を電動車にしたい」という趣旨の発言をしました。そして、その目標達成のため、官民で協力・推進するとの方向を打ち出しました。
これは、ガソリンや軽油など、石油エネルギーに依存した従来の自動車と決別し、電動車を日本の自動車産業の中核に位置づけ、政策的に支援することを明言したものです。
電動車で従来遅れをとっていたのは、先進国では米国と日本だけです。米国の場合、シェールオイルを産出する、世界的なエネルギー資源国であり、電動車の推進は、自国のエネルギー需要を狭めることになるからです。日本は、脱石油の観点から、ガソリン消費削減のための自動車燃費の改善や、天然ガス利用の促進、燃料電池自動車の普及に力を注いできました。
温室効果ガス削減目標達成へ急務
日本が電動車へのシフトを明確にしたのは、何より地球環境問題への対応が急務となっているからです。2015年12月にパリで開かれたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)では、地球温暖化防止のためのパリ協定が採択され、二つの課題が各国に努力義務として課せられました。一つは、「2度C目標」と呼ばれる長期目標の達成です。これは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度Cより十分低く保ち、1.5度Cに抑える努力をするという点です。
二つ目はそのための温室効果ガス排出削減目標を作成し、各国に通報すると言う内容です。日本は「2030年度までに2013年度比で温室効果ガスの排出を26%削減し、2050年には80%削減する」と言う思い切った目標を打ち出しています。
温室効果ガス削減は、さまざま分野での取組が求められますが、とりわけウエートの大きいのが自動車部門での削減です。電動車への切り替えは、こうした点から緊急の課題となっているのです。
政府がEVシフトに向けて政策転換に踏み切ったことは、自動車産業だけでなく、地域経済の活性化によって、国内産業全体の底上げが期待できるとの思惑もあるようです。現に、政府のEVシフトに直ちに反応したのが岡山県です。
岡山県は、去る8月7日、三菱自動車工業との間で、電気自動車およびプラグインハイブリッド車(PHV車、家庭の電源から充電できるハイブリッド車)に関して、EVシフトに対応した産業振興、地域活性化図るための連携協定を締結しました。連携協定に基づく事業として具体的には、EV関連技術対応促進事業があります。
同事業は、岡山県の自動車関連企業ネットワーク会議と連携して、経営者向けにEV普及により変化するサプライチェーン構造等を学ぶセミナーを開催します。
EV関連技術等の研究開発支援事業も実施します。具体的には、「新きらめき岡山創成ファンド支援事業」として、事業者の軽量化や静音化に関する研究開発を支援します。また、次世代産業研究開発プロジェクト創成事業として、モーター、リチウムイオン電池等のEV関連分野などで、県内企業と大学等との共同研究を支援します。
このほか、EVシフトに伴う成長分野での投資や新規参入の促進、EVやPHVを安心して利用できる環境整備などにも力を入れることにしています。
岡山県には、三菱自動車の電動車戦略拠点である水島製作所があります。同製作所では、2021年度を目途に、EV、PHVの小型SUV(スポーツタイプの多目的車)の生産を予定しており、県内サプライヤー(部品・資材供給事業者)への支援が課題となっています。
岡山県の動きに刺激され、全国の自動車関連産業地域でも、EVシフト化への対応が進むと見られ、国内の自動車産業の底上げが期待されています。