イージス・アショアって何?性能と導入効果を考える

政府は昨年12月、弾道ミサイルを迎撃できる地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の日本への配備を閣議決定しました。昨年、北朝鮮の相次ぐミサイル発射に対応する日本側の防衛措置ですが、その後、米国と北朝鮮との対話が実現し、「イージス・アショア」に対する見直し論も浮上しています。

「イージス・アショア」の性能や効果、さらに見直し論のゆくえなどを追っていきます。

北朝鮮の脅威に対して配備を決める

イージス艦は高性能レーダー使用による防衛システム搭載の自衛艦を指します。従来は、このイージス艦が飛来する弾道ミサイルから日本を守る役割を果たしていました。しかし、昨年から今年にかけ北朝鮮が相次いでミサイル発射実験を繰り返し、日本に対する脅威が増しました。そのため政府は急きょ、イージス・アショアを配備することにしたのです。

イージス・アショアというのは、イージス艦のミサイルシステムを陸上の施設として運用する形です。いわば、イージス艦の陸上施設版なのです。

日本のミサイル防衛体制(MDシステム)は、イージス艦と陸上配備の地対空ミサイルPAC3で構成されています。日本を攻撃するためのミサイルが飛来した場合、まず、イージス艦から発射されるミサイルで迎撃します。迎撃に失敗した場合は、陸上配備のPAC3で打ち落とすという2段構えです。

しかし、こうした現状のミサイルシステムでは限界があると言う意見が防衛関係者の間で強まっているのです。自衛隊のイージス艦は現在6隻あり、今後1年に2隻ずつ建造し、2022年に14隻の保有をめざしています。

また、国内には、PAC3が17ヵ所配備されています。PAC3の射程距離は半径約25kmと言われているので、守備範囲は、約3万4000平方kmになります。これは、日本の国土面積の1割にも満たない範囲です。

もちろん、国土の中には山林が多く、国土面積のすべてを防衛する必要はありません。しかし、東京、大阪などの主要都市、中小都市を含めた都市部や、原子力発電所(国内54ヵ所)、工業地帯などを、ミサイルから守ろうとすると、現在のイージス艦やPAC3だけではとても守りきれません。

現状の防衛体制を強化・拡充

イージス・アショアの配備は、現状のこうした防衛体制を強化・拡充する目的で決まったものです。イージス・アショアの防衛システムはすでに米軍がルーマニアで運用・管理を始めています。中東のイランなどからの防衛を目的としていますが、実際には、ロシアから欧州を防衛するのが主な目的と言われます。

今回、日本に配備を予定しているイージス・アショアは、ルーマニアのシステムとは少し異なります。ルーマニアのシステムは、弾道ミサイルの迎撃を主な任務としていますが、日本に配備予定のイージス・アショアは、ミサイル防衛だけでなく、戦闘機や爆撃機などの航空機に対しても防空能力を持っています。対空とミサイル防衛の両方を兼ね備えた統合型システムとなっているのです。

イージス・アショアは、北朝鮮の脅威に対する防衛措置と見られていますが、実はロシアが非常に神経をとがらせています。ルーマニアのシステムと同様、表向き北朝鮮への備えと言いながら、その実、ロシアへの攻撃にも使われるのではないかとの懸念があるからです。

ロシア政府が重大な脅威を表明

事実、最新型のイージス・アショアの射程距離は2000kmで、仮に大阪近辺に配備すると、北朝鮮はもちろん、北京、上海など沿海部の中国主要都市、そしてロシアの極東地域が射程範囲に入ると言われています。

もちろん防衛省は、イージス・アショアは国内防衛が主任務であり、他国を攻撃するものでないことを表明しています。しかしロシア政府は、イージス・アショアは「北東アジア地域に重大な脅威となる」とし、配備を強くけん制しています。

イージス・アショアの配備を決めた理由として、政府は、いくつかのメリットを指摘しています。その一つは燃料費が不要であるという点です。陸上施設ですから当然のことですが、人員もそれほど多く必要でないことも指摘されています。イージス艦に比べ、大幅な人員削減が可能です。さらもメンテナンスがイージス艦に比べて容易である点も導入のメリットとされています。

ただ、導入費用に関しては、1基当たり約1000億円と想定されています。現在、秋田県と山口県の2ヵ所が候補地として選定され、5年後をメドに運用開始を目指す方針です。

2ヵ所の配備だと2000億円、さらに高性能レーダーの設置などを考慮すると、導入費用は総額3000億円を上回るとみられています。そうした多額の費用に対し、疑問の声も上がっています。とりわけ北朝鮮、米国などをめぐる国際情勢が大きく変わってきたことが理由です。

今年6月、米朝首脳会談が実現し、世界的な緊張が緩和されたことから、日本の対北朝鮮防衛体制も見直すべきだとの議論が急速に高まったのです。そのため、イージス・アショアの配備についても、時期の再検討も必要との意見も出されています。

ただ、小野寺防衛大臣は「米朝の対話が具体化していることは事実だが、日本としての安全保障上のミサイル防衛問題の本質は変わっていない。しっかりとした備えを整えることが、大事だ」を述べています。イージス・アショアの是非論や見直し論は当分続きそうな見通しと言えます。

日本のミサイル防衛 (イカロス・ムック)

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。