異常気象の影響もあり、野菜の高騰が続いています。野菜は、一般消費者の必需食材であり、価格の上昇は、家計にモロに響きます。価格の高騰に加え、近年は、食の安心・安全に対する意識の向上などから、野菜の安定供給と価格の安定化、安全対策が求められています。そうした消費者意識の高まりから、最近、野菜や根菜類、果樹類などの養液栽培が注目されています。
先ごろ、民間経済調査会社の矢野経済研究所が、養液栽培市場に関する調査結果をまとめました。調査内容を中心に、溶液栽培市場の現状と将来の見通しを探っていきます。
市場規模は2018年予想で91億4000万円
溶液栽培には、培地を使わずに培養液の中や表面で根が育つ「水耕栽培」、土の代わりとなるさまざまな培地に作物を栽培する「固形培地栽培」、培地を使わずに根に培養液を霧状に噴霧する「噴霧栽培」など、さまざま方式があります。矢野経済研究所の調査報告書によると、養液栽培市場は、養液栽培に関する一連の設備・システムなどのトータルの市場を指し、それらの出荷額はこの数年、着実な伸びを見せています。
報告書によると、2014年では養液栽培システム市場の規模は82億8000万円でしたが、2015年には85億円に拡大、2016年は88億円に、さらに2017年には90億9000万円と、90億円を突破しました。2018年は見込み額として91億4000万円が予想されています。
出典:株式会社矢野経済研究所 2018年の養液栽培システム市場
養液栽培市場の拡大は、国内農業をめぐる環境が大きく変化していることによると見られます。農家の高齢化が進み、後継者不足が深刻になっていること、その要因として、農家の安定収入の確保が困難なことなどがその背景にあります。それに加え、食に対する安心や安全への意識の高まりから、消費者が減農薬作物を求めることが拍車をかけています。
農業をめぐるそうした課題を克服する対策の一つとして注目されているのが養液栽培といえます。養液栽培では、天候や病害などによる連作障害を回避できたり、地理的に栽培が困難な地域でも栽培が可能となります。さらに、栽培全体を装置化・機械化することにより、土を耕したり、除草、土壌消毒などの作業が不要となるため、労働力の省力化につながります。
また、周年栽培が可能になることで、単位面積あたりの生産効率が上がり、農作物の鮮度を維持したままでの出荷が可能となります。
会社経営による施設園芸面積が拡大
市場拡大の直接的要因としては、施設園芸面積の大規模化があげられます。会社方式による経営の導入で、設備・システムの高度化が近年進みました。
異業種からの新規参入が増えていることで、規模の競争が活発になっていることも見逃せません。農家自身も、従来の減反政策の停止により、稲作から園芸作物への転換が急がれています。さらに、身障者、高齢者の雇用促進策として、専用の機械設備・器具の導入が進んでいることも施設の機械化、システム化促進の要因となっています。
農林水産省が実証拠点設け支援策
養液栽培は、一般的には植物工場とも呼ばれます。植物工場の推進については農林水産省も積極的に支援の方針を打ち出しています。同省は2009年度から、全国6ヵ所に植物工場の実証拠点を設置し、植物工場に関する生産技術の普及・促進に努めています。
同省は植物工場支援の検討課題として以下の4点をあげています。
① 植物工場産青果物の販路の確保と拡大
植物工場での産品については、一般の認識がいまひとつであり、啓蒙・普及を図る必要があります。そのため同省では、より付加価値を高めた生産を可能としたうえで、販路確保の手法を検討します。また、より安全性の高い衛生管理手法についても具体策を検討することにしています。
② 生産コストの縮減
施設の整備には、多額の初期投資が必要であり、その抑制のために、標準的な施設規格などの標準モデルを策定し、その普及・啓発を徹底します。さらに、新技術の導入等により、低コストな生産システムの開発を進める必要があります。
③ 人材の育成
園芸農業だけでなく、植物工場に関する技術、知見等についても研修内容を強化し、実践的な指導を行える人材育成体制を構築する方針です。
④ 技術開発および支援体制の強化
これについては、生産者、資材メーカー、流通関係者、需要家等、関係各者の知識を集積・活用できるよう協議会等を設け、植物工場への支援体制の輪を広げていきたい、としています。
養液栽培などの植物工場は、日本は世界的に見て遅れているのが実情です。一般社団法人イノプレックスによると、養液栽培の設備プラント市場は、2016年の世界の年間売上高でみると、総計2億3000万ドル(約260億円)と推定されます。年成長率は、平均10%を超えています。2025年には、年間売上高が約633億円に達すると予測され、新たな成長市場と見られています。
養液栽培が進んでいるのは欧州で、世界全体の売上高の36%を占めています。国土の狭い国々が多く、早くからIT技術の導入が進んだためといわれます。オランダや北欧諸国でも養液栽培が普及しています。大規模農業の普及している北米でも、都市部では、ITを活用した植物工場の導入が目立っているようです。
日本の養液栽培、植物工場も、世界各国に遅れをとらないよう、また、新たな成長ビジネス市場として、官民での普及・拡大策が求められています。