主要政党の農業に関する政策を比較する
農林水産省のホームページによると、2014年度の日本の食料自給率はカロリーベースで39%、生産額ベースで64%でした。食品の多くを輸入に頼ることは、食の安全性、また不測の事態によって輸入がストップする危険性を考えると、食料自給率の向上を目指す必要があります。
しかし、一方で2010年からスタートしたTPP交渉に対し、日本は同年10月に参加検討を表明。農産物の輸入が拡大し、国内農業が縮小するという声が高まりました。TPP交渉参加の是非と国内農業への支援・保護について、各党はどう考えてきたのでしょうか。
自民党 | 公明党 | 民主党 | 共産党 | 社民党 | |
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2009年衆院選 (民主への政権交代) | ・平成の農地改革を断行 ・意欲ある農家の経営を最大限サポート など | ・水田フル活用などで農業を産業として自立 など | ・販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を導入 など | ・価格保障・所得保障の実施 ・後継者をふくむ新規就農者への「月15万円を3年間」の支給を柱とする「新規就農者支援法」の制定 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 など | ・所得保障制度の導入 農産物の輸入拡大 ・国内農業の縮小につながるEPAやFTAに反対 ・青年農業者への助成金制度を創設し、新規就農者を増やす など |
2010年参院選 | ・多面的機能を評価した「日本型直接支払い」 ・地域の努力を踏まえた「経営所得安定制度」の創設 ・農林水産物の消費と輸出を倍増 など | ・水田・畑作経営の戦略作物について地域ごとの再生産価格を確保する経営セーフティネットを構築 など | ・「戸別所得補償制度」の拡大 ・給食における「地産地消」の推進 など | ・価格保障・所得保障の実施 ・後継者をふくむ新規就農者への「月15万円を3年間」の支給を柱とする「新規就農者支援法」の制定 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 など | ・所得保障制度の追求 ・農産物の輸入拡大 ・国内農業の縮小につながるEPAやFTAに反対 ・青年農業者への助成金制度を創設し、新規就農者を増やす など |
2012年衆院選 (自民、政権奪回) | ・「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対 ・新規就農、継承を推進する「担い手総合支援法」制定 ・需要安定、輸出対策の強化 ・「多面的機能直接支払い法」の制定 など | ・TPPは十分に審議できる環境をつくるべき ・新規就業者の育成・定着 ・所得補償制度は固定部分を維持しながら、農家からの拠出を伴う経営所得安定対策へと見直し など | ・TPP交渉を進め、政府が判断する。日本の農業、食の安全は守る ・「戸別所得補償制度」を安定した制度へ ・「人・農地プラン」に基づく地域の中心となる事業者への農地集積を行う など | ・TPP参加はきっぱりと断念 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 ・新規就農者を増やす特別の努力を など | ・TPPは断固反対 ・EPAやFTAは柔軟な取り決めを目指す ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 ・戸別所得保障制度の法制化・拡充 など |
2013年参院選 | ・TPPは守るべきは守り、攻めるべきは攻める ・農業の担い手の育成 ・所得倍増、食料自給率の向上 ・「多面的機能直接支払い法」の法制化 など | ・TPP交渉では農産物の重要品目について関税撤廃から除外する ・経営所得安定対策を法制化 ・農林水産物の輸出額倍増 など | ・TPPについては、農林水産物の重要5品目などの除外 ・食の安全の確保などの国益を確保するために、脱退も辞さない ・「戸別所得補償制度」の法制化 など | ・TPP交渉参加の撤回を強く求める ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 など | ・TPP参加に反対 ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 ・戸別所得保障制度の法制化・拡充 など |
2014年衆院選 | ・TPP交渉は国益にかなう最善の道を追求 価格低下等による収入減少時のセーフティネットとして、収入保険制度の導入を検討 など | ・TPP交渉では守るべきは守り、勝ち取るべきは勝ち取る ・農協・農業委員会等の改革 ・収入変動に対応した収入保険制度の導入 ・輸出額倍増を目指す など | ・TPPについては、農林水産物の重要5品目などの除外 ・食の安全の確保などの国益を確保するために、脱退も辞さない など | ・TPP交渉参加の撤回を強く求める ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 など | ・TPPへの参加に断固反対 ・食料主権や農業基盤を守る経済連携を東アジア中心に推進 ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 など |
2009年衆院選(民主党へ政権交代) | |
自民党 | ・平成の農地改革を断行 ・意欲ある農家の経営を最大限サポート など |
公明党 | ・水田フル活用などで農業を産業として自立 など |
民主党 | ・販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を導入 など |
共産党 | ・価格保障・所得保障の実施 ・後継者をふくむ新規就農者への「月15万円を3年間」の支給を柱とする「新規就農者支援法」の制定 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 など |
社民党 | ・所得保障制度の導入 農産物の輸入拡大 ・国内農業の縮小につながるEPAやFTAに反対 ・青年農業者への助成金制度を創設し、新規就農者を増やす など |
2010年参院選 | |
自民党 | ・多面的機能を評価した「日本型直接支払い」 ・地域の努力を踏まえた「経営所得安定制度」の創設 ・農林水産物の消費と輸出を倍増 など |
公明党 | ・水田・畑作経営の戦略作物について地域ごとの再生産価格を確保する経営セーフティネットを構築 など |
民主党 | ・「戸別所得補償制度」の拡大 ・給食における「地産地消」の推進 など |
共産党 | ・価格保障・所得保障の実施 ・後継者をふくむ新規就農者への「月15万円を3年間」の支給を柱とする「新規就農者支援法」の制定 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 など |
社民党 | ・所得保障制度の追求 ・農産物の輸入拡大 ・国内農業の縮小につながるEPAやFTAに反対 ・青年農業者への助成金制度を創設し、新規就農者を増やす など |
2012年衆院選(自民、政権奪回) | |
自民党 | ・「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対 ・新規就農、継承を推進する「担い手総合支援法」制定 ・需要安定、輸出対策の強化 ・「多面的機能直接支払い法」の制定 など |
公明党 | ・TPPは十分に審議できる環境をつくるべき ・新規就業者の育成・定着 ・所得補償制度は固定部分を維持しながら、農家からの拠出を伴う経営所得安定対策へと見直し など |
民主党 | ・TPP交渉を進め、政府が判断する。日本の農業、食の安全は守る ・「戸別所得補償制度」を安定した制度へ ・「人・農地プラン」に基づく地域の中心となる事業者への農地集積を行う など |
共産党 | ・TPP参加はきっぱりと断念 ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 ・新規就農者を増やす特別の努力を など |
社民党 | ・TPPは断固反対 ・EPAやFTAは柔軟な取り決めを目指す ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 ・戸別所得保障制度の法制化・拡充 など |
2013年参院選 | |
自民党 | ・TPPは守るべきは守り、攻めるべきは攻める ・農業の担い手の育成 ・所得倍増、食料自給率の向上 ・「多面的機能直接支払い法」の法制化 など |
公明党 | ・TPP交渉では農産物の重要品目について関税撤廃から除外する ・経営所得安定対策を法制化 ・農林水産物の輸出額倍増 など |
民主党 | ・TPPについては、農林水産物の重要5品目などの除外 ・食の安全の確保などの国益を確保するために、脱退も辞さない ・「戸別所得補償制度」の法制化 など |
共産党 | ・TPP交渉参加の撤回を強く求める ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 など |
社民党 | ・TPP参加に反対 ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 ・戸別所得保障制度の法制化・拡充 など |
2014年衆院選 | |
自民党 | ・TPP交渉は国益にかなう最善の道を追求 価格低下等による収入減少時のセーフティネットとして、収入保険制度の導入を検討 など |
公明党 | ・TPP交渉では守るべきは守り、勝ち取るべきは勝ち取る ・農協・農業委員会等の改革 ・収入変動に対応した収入保険制度の導入 ・輸出額倍増を目指す など |
民主党 | ・TPPについては、農林水産物の重要5品目などの除外 ・食の安全の確保などの国益を確保するために、脱退も辞さない など |
共産党 | ・TPP交渉参加の撤回を強く求める ・関税を維持・強化し、食料主権を保障 ・価格保障・所得保障の実施・充実 など |
社民党 | ・TPPへの参加に断固反対 ・食料主権や農業基盤を守る経済連携を東アジア中心に推進 ・農山漁村への再生エネルギー導入促進 など |
TPP反対、慎重意見からの大転換。自民のブレに公明も同調
自民党は2012年の選挙公約において『「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対』と明記しています。しかし、選挙後に政権を担うと安倍総理はアメリカのオバマ大統領と会談し『「聖域なき関税撤廃」は前提ではなかった』として、すぐにTPP参加を表明しています
公明党は2012年の公約ではTPPに関して「国会に調査会もしくは特別委員会を設置し十分審議できる環境をつくるべき」としていました。しかし、その数ヶ月後には安倍総理がTPP交渉への参加を表明。2013年の公約では農産物の重要品目について関税撤廃から除外することを明記したものの、TPP交渉で国益の最大化を得ることを記しています。
言いだしっぺの民主が消極的な姿勢に変化。共産、社民は一貫してTPP反対
民主党は、TPP参加検討を表明したのが当時の菅直人総理だったこともあり、2012年には日本の農業と食の安全を守ることを明記すると同時に、参加交渉を推進していました。しかし、野党となった2013年以降は、反対こそしないものの「国益を確保するために、脱退も辞さない」と、否定的な言葉を用いるようになっています。
社民党も2009年から国内農業の縮小に繋がる経済協定には反対を明言しており、2012年からはTPPに断固反対の意志を表明しています。また、農村漁村への再生エネルギー導入促進など、社民党らしい独自の政策も打ち出しています。
社民党は震災前から「ヒューマン・ニューディール」を掲げ、最も熱心に環境問題と結びつけた経済政策を打ち出してきました。ただ、震災以降は脱原発や再生エネルギーの促進などを主張しつつも、他党との差別化を図るためか、中小企業支援や賃上げ、消費税の引き下げによる内需拡大路線にシフトした印象です。
TPP交渉に関する政策では、条件を付けていたとは言え、反対から即賛成に転換した自民党はブレたと言わざるを得ないでしょう。最初からTPPに賛成のところを、選挙対策として反対に見せていたのかもしれません。また、公明党と民主党についても、政権交代によって政策が変わったと思われても仕方がないでしょう。
2016年4月、民進党はTPPの承認を求める議案などを審議する特別委員会で、自民党への攻勢を強めています。TPPの言いだしっぺである民主党が、これからTPPを、そして日本の農業をどう捉えていくのか。注目したいと思います。