ヤマトグループとJALが提携、パリにアンテナショップ そのねらいは?

ヤマトグループと日本航空(JAL)が提携し、9月上旬にパリにアンテナショップを設置することになりました。日本の農産物の輸出入から輸送および配送、現地での販売などのトータルなプロジェクトに取り組むのが狙いです。パリにおけるアンテナショップは、その第一弾で、同ショップを拠点にフランスでのテストマーケティングを行います。今、なぜパリでアンテナショップなのか、その設置のねらいと今後の戦略を探ってみました。

和食の文化遺産登録をきっかけ

ヤマトグループと日本航空が日本の農産物の輸出入で提携し、パリにアンテナショップを設置することになったきっかけの一つは、今、世界的に高まっている和食ブームです。和食すなわち日本人の伝統的な食文化は、平成25年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。それ以降、和食は世界的な人気を集め、とくに美食家の多いフランスでは日本食に対する関心が高まったのです。

日本国内における食品産業の市場は、健康志向やダイエットへの関心の高まりなどから、従来のような量的な拡大は望めなくなっています。また、少子高齢化や人口減少なども、食品市場の拡大にブレーキとなっています。そうした中、海外での日本食や日本の食材への需要は高まる一方です。日本の農水産物の生産者や企業も、拡大する海外市場への販路拡大の検討に乗り出すところが目立っています。

ユネスコの無形文化遺産登録は日本食ブームに火をつけ、農水産物生産者や企業の海外市場開拓の動きに拍車をかけました。とくにフランスは、日欧EPA(経済連携協定)の発効や、日仏交流160周年を記念したジャポニズム2018の開催など、日本への関心が特に高まっていることが見逃せません。

日欧EPAは、世界のGDPの3割、貿易額の4割を占める巨大な自由貿易圏を誕生させるものです。農産物や電気製品や自動車の関税を撤廃し、相互に自由な貿易を促進するのがねらいです。米国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱し、日本の産業・経済に大きなショックを与えていただけに、TPPに匹敵する新たな市場の誕生は、日本と欧州双方にとって、大きなメリットであると期待されています。

フランスは、欧州でも有数の農産物国であり、食に造詣の深いといった文化的背景もあります。日欧EPAの発効は日本企業にとって、フランスが一段と魅力的な市場になることを意味します。

自治体同士のつながり強い日仏間

これまでのフランスと日本は、自治体同士の交流の歴史があり、それぞれの都市間で姉妹都市提携が活発に進められていることは意外に知られていません。パリ市と京都市は1958年、日仏間で初めて姉妹都市提携を実現しました。

それ以来、日仏の自治体間で約60の姉妹都市協定が締結されています。2008年の日仏交流150周年記念会議では、自治体間協力がメインテーマの一つに掲げられ、ナンシー市と金沢市のそれぞれの市長の呼びかけによって「日仏自治体交流会議」が初めて開催されました。交流会議はその後何度も開かれ、観光、教育、環境問題などで幅広い交流が行われています。とくに最近は、地域経済の振興が重点テーマに取り上げられ、両国自治体間の地域産品や農産物の輸出入なども話し合われています。

とはいえ、地方における企業や農産物生産者にとって、欧州での販路拡大には大きな課題もあります。とくに煩雑な輸出入手続きや、現地での販売先の開拓、言語のカベ、歴史・文化的背景の違いによるコミュニケーションの難しさなどが指摘されています。また、フランスをはじめとするEU(欧州連合)諸国では、食品に関する安全基準が厳しく、輸出入にかかわる各種許可申請や輸入規制品などが複雑で分かりにくい、といった問題もあります

他方、日本政府は、国内の地域活性化・地方創生を重要な政策課題に掲げており、地域産品の海外市場開拓が重要と考えています。農水省は、一次産業の農業を、農林漁業から製造業、流通・小売業までをトータルとして捉える、いわゆる農業の6次産業化を進めています。その一環として、日本の食品、水産物などの海外売り込みを図りたい意向です。

輸出入手続きなどの実績、ノウハウを活用

ヤマトグループと日本航空との提携は、従来の両社の輸送業務、各種の輸出入手続きの実績やノウハウを踏まえたものですが、政府や地方自治体の農業・水産物などの輸出振興策とも合致するといえます。そのため、パリに設置するアンテナショップでは、国内の各都道府県自治体とも連携し、フランスに売り込める商品提案、食材、調理法など、幅広い売り込みを行っていく方針です。

ヤマトグループと日本航空との提携およびアンテナショップの開設は、両社のビジネスだけでなく和食を通じて、日本のおもてなしと食文化を売り込む官民の取組といってよいでしょう。

改訂・アンテナショップをめぐる旅

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。