「先生」と呼ばれる職業には、尊敬の念が込められており、教師や医師、歯科医師、弁護士などがあります。議員もその中のひとつの職業といえますが、有権者からの「尊敬」が薄れているのか、地方議員のなり手不足が深刻です。
過疎化が進む村や町だけではなく、人口が比較的多い市であっても、候補者が足りずに政党などが必死に公募をかけたりしています。 2015年の統一地方選挙では、14市と北海道伊達市伊達区、89町村の議会議員選挙が無投票となりました。
いったいなぜ地方議会議員はなり手が少なくなっているのでしょうか。この理由には市議会議員の議員報酬が関係しています。詳しく見ていくことにしましょう。
原資は税金!自治体毎に違う市議会議員の給料
日本では地方議員に支払われる給料、いわゆる議員報酬は地方自治体ごとに決められています。この議員報酬の原資となっているのは、当然その自治体で生活している人から納められている税金です。つまり、税収が豊かな自治体は議員報酬を高く設定することができるし、収入が少なければ議員に支払う給料も少なくなるというわけです。
極端な話、市民の数が少なくても、そこに住む市民が高額納税者ばかりであれば、税収はあがり、議員報酬も高くなるということになります。ただし、人口の多い都市部にいくほど自治体の税収はあがり、高齢者が多く特に目立った産業がない自治体では税収は少なくなるのが一般的です。
それほど小さな自治体とは言えない人口10万人未満の市であっても、平均的な議員報酬は月額35万円未満だと言われています。市議会議員は、自分たちが住んでいる街をよくするために活動してくれる立派な職務であるはずですが、それに見合った収入を得ることができないということで、特に若い人たちのなり手不足が深刻となっています。
総務省が発表している2015年の市議会議員年収を見てみると、トップは政令市のひとつである横浜市で年収1629万円、最下位は財政再生団体になっている夕張市の260万円です。 政令市の市議会議員は都道府県議会議員と同等かそれ以上の報酬がある上、夕張市は財政破綻しているため、市議会議員のなかでもとりわけ議員報酬が少なく、一概に比較はできません。
では政令市以外の市議の年収を比較してみましょう。
政令市以外の市議会議員でもっとも年収が高いのが大阪府東大阪市の1167万円です。東大阪市は人口50万人のいわゆる中核市にあたります。人口20万人を切る街の市議会議員では、こちらも大阪府の松原市(人口12万人)が1052万円です。
夕張市を除いた市議のなかで年収が低いのは、秋田県にかほ市の384万円、次いで熊本県阿蘇市の386万円、高知県室戸市の388万円となっています。関東地方でみると、茨城県行方市の394万円がもっとも低くなっています。
全国の市議会議員の報酬は平均すると約681万円と言われているので、「先生」と言われるほど高給を得ているとは言えないかもしれません。
給料のほかに、賞与や政務活動費の支給もあり!
市議会議員の年収には、議員報酬と呼ばれる月額で決められている金額以外にも、期末手当や政務活動費というものが支払われています。期末手当とは、一般企業でいう賞与(ボーナス)のことです。平均としては165万円ほどの支給と言われていますが、この期末手当も各自治体によって異なります。税収が多い方が期末手当も高くなる傾向はあり、年収が高くなる要因にもなっているのです。
ほかにも、一般企業の給料にはない政務活動費というものがあります。これは議員が活動する際の費用に充ててもらうためのお金です。
市議会議員は、自分の自治体だけで活動しているわけではありません。ほかの自治体に赴いて取り組みを勉強したり、自治体の取組内容について調査したりしています。これらの視察・研修への参加費・調査時の交通費・宿泊費・資料の購入などに政務活動費が使われます。
そのほか、議会報告を制作・印刷・郵送したり、ホームページの制作や運営にも政務活動費が使えたりします。政務活動費の使途は自治体によって異なります。
この政務活動費も自治体によってかなり開きがあり、例えば東大阪市では月額15万円の政務活動費が使えますが、北海道網走市のように月額2万円というところもあります。
議員にとっての給料とは政治活動の費用も込み
政務活動費が多くもらえる自治体は、市議会議員の活動も幅広く行うことができますが、実際にはそういう自治体ばかりではありません。政務活動費が少ない自治体の市議会議員は、活動の不足分は自費で負担しなければならないということになり、表向きは収入が多いように見えても、実際には手元に残るお金が少ないという市議会議員も多いのです。
議員報酬で生活を立てているという議員にとっては、活動費にお金がかかりすぎると、自分の生活が成り立たなくなってしまいます。そのために、やりたい活動が制限されてしまうといったことも起こるのです。
政治活動に興味があっても、給料としてもらっている議員報酬から自腹を切らなければならない現実もあって、若い人の地方議員のなり手は少なくなっていると言われています。
こうした事態を打開するために、地方自治体では議員定数を減らす取り組みがされています。平成18年から25年の6年間で、全国の市議会議員の数は4800人あまりも減っているのです。これは地方自治体の苦しい財政状況を、物語っている結果であるといえるでしょう。
制限はあるが可能!市議会議員の副業
議員報酬が削減されていく中で、特に報酬が少ない自治体の市議会議員(町村議会議員も含む)というのは議員の給料だけで生計を立てているわけではないのです。政務活動費に自らの議員報酬を充ててしまうと、とても生活が成り立たないということで、別に仕事を持っている人もいます。
市議会議員というのは公務員ではありません。そのため副業をすること自体は禁じられていません。どちらを本業と考えるかは人それぞれ違いますが、兼業で市議会議員を行っている人はとても多いのです。
ただし、市議会議員になれる人というのは規定があります。国でも地方でも公務員である人は市議会議員に立候補することができません。これは公職選挙法で定められていることです。また地方議会議員と首長は、自身が務める地方公共団体から請負う仕事をしていてはいけないという決まりもあります。
わかりやすく言うと、市役所に文房具などを卸している文具店の経営者や、市から市内の学校の増改築工事を請け負っていたりする会社社長などは立候補することはできないということです。
自分の住んでいる地方自治体と全く関係のない一般会社員は、市議会議員に立候補することは可能です。けれども市議会議員の定例会は平日に行われることがほとんどであり、いくら年間会期日数が90日程度であっても、それだけの日数を有給で休むことは難しいでしょう。そのために実際の副業としては、会社経営者や自営業、農業など自分で時間を融通することができる職種の人が多くなります。
また、副業の方が忙しくて、市議会議員の活動がおろそかになる可能性も否定はできず、しばしば問題となることがあります。
税金ということを忘れず、大切に使う意識が重要
市議会議員がもらえる議員報酬は、自治体において大きな差がありますが、それが多寡であるかどうかは実際の活動内容によっても見方は変わるでしょう。市議会議員の仕事というのは、自分の住んでいる自治体の将来がより良い方向へ進んでいくように、さまざまな働きかけや取り組みを行うことです。その活動が自分たちの暮らしに反映され、将来にわたって住みよい街づくりを行ってくれているのであれば、報酬は決して無駄ではありません。
市議会議員の議員報酬が問題に取り上げられるのは、その活動内容が報酬に見合っているかどうかが問われるからです。事実として、市議会議員になってもあまり目立った活動はせず、定例会にだけ出席し給料として報酬を受け取っている人が存在します。
一所懸命に働いてくれている市議会議員であっても、ただ名前だけを連ねているような市議会議員であっても、その報酬の原資は市民の税金です。よりよい街づくりに使ってくれることが大前提であり、市議会議員はそのことを肝に銘じておく意識が必要です。
そして私たち市民も、大切な税金を大切に使ってくれる人を選挙で選んでいるのだということは意識しなければならないでしょう。