なりふり構わぬ大手電力の営業手口 経産省が規制へ

電力自由化から2年半が経過しましたが、大手電力会社の新たな営業手口が問題になっています。自由化で顧客の流出が続く大手電力会社が、顧客引きとめのための新たな営業策として実施している「取り戻し営業」と言う手法です。これについては、独占禁止法で禁じている、公正な競争を阻害するとの指摘もあり、経済産業省が規制に乗り出す構えを見せています。

消費者の自由な会社選択を妨げる

「取り戻し営業」というのは、従来の大手電力会社との契約を新電力に切り替えようとする顧客に対し、これまでより大幅に安い電力料金を提示したり、お得な料金サービスプランを提示するなどによって、顧客を引き止める営業手法です。

こうした手法を放置すると、新電力と大手電力との公正な競争がゆがめられ、消費者の自由な会社選択を妨げるだけでなく、電力自由化の意義をなくしてしまうと懸念されています。そのため経済産業省がそうした営業を規制するための検討を始めました。年内には、規制の具体策がまとまる見通しです。

小売電力の全面自由化がスタートしたのは2016年4月で、それまでの国内大手電力会社10社に加えて、新電力と呼ばれるさまざま企業が電力市場に参入しました。その数は、2018年7月5日時点で496社にのぼっています。500社近い新電力が、大手電力会社と競争を展開しているわけです。

販売電力量全体に占める新電力の割合は、自由化当初約5%だったのが、2018年3月時点では約13%に増大しました。販売電力には、特別高圧、高圧、低圧があり、特別高圧、高圧はいずれも大工場やショッピングセンターなどの大口需要家向け電力です。家庭や商店などの小口需要家向け電力は低圧と呼ばれ、自由化後は、この低圧分野での新電力の伸びが著しくなっています。

低圧分野での新電力のシェアは、自由化当初、1%以下の微々たるものでしたが、1年後の2017年3月には、東京、関西地域など、大都市圏では、5~7%にまでシェアを伸ばしました。そして2018年3月時点では、東京地域で12.6%、関西地域で11.7%と、10%を超えました。1年あまりでシェアを2倍以上に伸ばしたことになります。

低圧分野での新電力のシェアが伸びたのは、家庭や商店などを中心として、電力購入先の切り替えが進んだことによるものです。切り替えの動きを具体的に見ると、最も切り替えの進んだのは東京地域(東京電力管内)で、今年3月末までに319万件、切り替え率で13.9%が新電力に移行したと見られます。次いで関西地域(関西電力管内)の132万件、移行割合は13.1%。北海道地域(北海道電力管内)でも27万5000件、10.0%の移行割合となっています。

取り戻し営業は、正確に実態が把握されているわけではありませんが、経産省によると「需要家(一般消費者など)が、新小売電気事業者(新電力など)に契約申し込みを行い、新電力から実際に電気の供給が開始されるまでの1~2ヵ月程度の期間に、現小売電気事業者(大手電力会社など)による営業行為(取り戻し営業)が行われる」ということです。つまり、新電力との契約を思いとどまってほしいというわけです。

契約切り替えにスイッチング支援システムを運用

自由化後の電力会社の契約切り替えについては、電力広域的運営推進機関(広域機関)によるスイッチング支援システム(契約切り替え支援の仕組み)が運用されています。これは、消費者の電力会社切り替えを円滑に行うことを目的として制度化されたシステムです。

消費者が電力会社との契約切り替えを行う場合、新たな事業者に契約を申し込むだけで、自動的に現在の事業者との契約が解約され、新事業者から電気の供給が行われるという、「ワンストップ」体制が整っています。現契約の電力会社には、スイッチング支援システムを通じて、消費者から契約切り替えの要請があったことが伝えられます。

消費者は、スイッチング支援システムによって、現契約の電力会社に問い合わせたり、相談することなく、新事業者への申し込みだけで新たな電力購入契約を結ぶことできるのです。新事業者への契約申し込みをしてから電力会社の切り替えが終了するまで一定の期間が必要であり、「取り戻し営業」はその間に行われるようです。ただ、電気の供給がストップすることはありません。

経産省は実態調査に乗り出す

経産省は、こうした取り戻し営業が表面化していることを重く見て、その実態調査や是正策の検討に乗り出しました。検討は、同省の電力・ガス取引監視等委員会で進められますが、当面、従来料金より安い価格の提示が不公正な取引にあたらないか、契約切り替えの期間を現在の2ヵ月程度より短縮できないか、などについて議論を進めることにしています。

議論の中では、本来、自由化は消費者に安い料金の電気を提供することが目的であり、一般的に電力会社が安い料金を提示することは必ずしも排除されるべきではない、との意見もあります。それらを含めて今後、取り戻し営業の具体的な是正策を検討し、年内には新たな規制措置がとりまとめられる見通しです。

政くらべ編集部

政くらべ編集部

2013年に政治家・政党の比較・情報サイト「政くらべ」を開設。現職の国会議員・都道府県知事全員の情報を掲載し、地方議員も合わせて、1000名を超える議員情報を掲載している。選挙時には各政党の公約をわかりやすくまとめるなど、ユーザーが政治や選挙を身近に感じられるようなコンテンツを制作している。編集部発信のコラムでは、政治によって変化する各種制度などを調査し、わかりにくい届け出や手続きの方法などを解説している。