前回の2014年衆院選で安倍晋三首相が率いる自公政権が打ち出した公約は、どこまで達成できたのか、自民、公明両党の主だった公約を取り上げ検証する特集の第2弾。政権与党内で、自民党のストッパー役を自負している公明党を見ていきます。
生活者目線で独自性を発揮、返済不要の給付型奨学金を実現
自民党と連立を組み、安倍政権を支える公明党は、2014年の前回選挙で目玉公約に子育て支援の充実や大学奨学金制度の拡充などを掲げました。いずれも生活者目線を訴えた公約です。
安倍晋三首相のスタンスはどちらかといえば市場の競争に委ねる新自由主義の色合いが濃いだけに、格差是正に目を配る庶民の政党という立場を強調しているわけです。その中で存在感を発揮したのが奨学金制度の拡充でしょう。
教育負担の軽減は公明党が結党時から主張してきたテーマです。大学生を対象とした返済不要の給付型奨学金は公明党の提案もあって2017年度からスタートし、2,800人に月額3~4万円が支給されています。2018年度からは対象者が2万人拡充される方向です。同時に、貸与型では有利子奨学金の対象者を減らし、無利子奨学金の対象者を2018年度、51万9,000人から56万3,000人に増やすことが予算要求されています。
日本は先進国の中で教育費に占める公的資金の割合が最低水準で、卒業後奨学金の返済に苦労する若者が少なくありません。ブライダル大手のノバレーゼのように社員の奨学金返済を肩代わりする企業も出てきましたが、まだ少数派です。低所得世帯の若者に高等教育の機会を与えるため、奨学金の拡充は喫緊の課題となっていました。
教育環境の整備では新自由主義の行き過ぎにブレーキ
教育環境の整備を求める公明党の主張は大学に限った話ではありません。東京都が2017年度から年収760万円未満の世帯を対象に私立高校授業料の実質無料化を実現したほか、大阪府も独自の制度を進めています。
さらに、幼児教育の無償化も一貫して主張し、低所得のひとり親世帯や2人以上の子どもを持つ多子世帯の一部に支援対象を広げるよう求めてきました。今後はその動きを加速させ、2019年までにすべての就学前児童(0~5歳児)を対象に幼児教育の無償化を目指す考えです。対象は幼稚園、保育所、認定こども園に及びます。
自民党も前回選の公約に教育再生を掲げていますから、公明党だけが教育環境の整備を推進してきたわけではありませんが、公明党の主張が政権の政策決定に一定の影響を与えたことは否めません。新自由主義的な政策は自由な競争を重視するだけに、格差の拡大や弱者へのしわ寄せが起きる懸念があります。新自由主義の行き過ぎにブレーキをかける役割を果たしたと評価していいでしょう。
待機児童問題では存在感を十分に発揮できず
逆に、十分な存在感を発揮できなかったのは子育て支援でしょう。日本の国難ともいえる課題が少子高齢化です。
女性が一生に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、2016年の国内全体で1.44。人口維持に必要な水準は2.07とされます。日本の現状はかなり厳しい状態なのです。その結果、2016年1年間に生まれた子どもの数は、初めて100万人の大台を割り、97万7,000人まで落ち込みました。晩婚化や非婚化、低所得者層の増加などさまざまな原因が挙げられていますが、社会が十分な子育て支援をできず、女性が出産に踏み切れない状況が強まっていることも少子化の一因といえるでしょう。
このため、子どもの数が減少して働く世代が減る一方、寿命の延びから高齢者が増え、将来の社会保障維持が不安視される状況になってしまったのです。子育て支援が働く女性対策、少子化対策の両面で重要な課題であることは以前から指摘されていました。
しかし、国と地方自治体の財政難から抜本的な対策が講じられず、託児施設の不足や育児と仕事の両立が困難な職場環境など問題が山積しているのです。その代表的な事例は保育士を確保できずに大都市圏で待機児童があふれていることです。
根本の原因として保育士の待遇が低すぎる問題があります。2016年にこの問題がクローズアップされ、待遇改善の動きが出たのは、国会で野党の追及を受けたのがきっかけでした。子育て支援を打ち出していた公明党の主張は政権に届かず、後回しにされていたことになります。
子ども・子育て支援新制度は2015年に実現
存在感を発揮できた部分もあります。2015年にスタートした「子ども・子育て支援新制度」は、公明党が長く主張してきた政策の1つです。
新制度では保育の多様な受け皿が整備されることになりました。これまでの認可保育所(定員20人以上)に加え、0~2歳児を少人数単位で保育する地域型保育事業が創設され、大都市の待機児童解消に役立つだけでなく、子どもが少ない地方でも身近な場所で保育できるようになったのです。保育施設の利用は以前、フルタイムで働く人を優先していましたが、新制度によりパートタイムや夜間就労、求職中の人の利用にも道が開けました。
しかし、こうした改革はもっと早く進められるべきでした。男女雇用機会均等法が施行されたのは、今から30年以上も前の1986年です。それまでの男性が社会で働き、女性が家を守るという古い家庭観を脱ぎ捨て、男女がともに社会で活躍する時代にしようとする思いが法律に込められています。それなのに、子育てしながら働く環境の整備は遅れてきました。男性中心の古い価値観が社会を縛っていたことも原因の1つでしょうが、こうした点にまで踏み込み、社会を変える一石を投じられなかった点は、国民からすると少し残念な部分かもしれません。
政府の低所得者向け給付金は公約通りに拡大
21世紀に入り、国民の経済格差が拡大しています。長引く不況で賃金が伸びなかったうえ、非正規雇用から抜け出せない人が増えたためです。
増える低所得者層の救済に向け、公明党が前回選挙で打ち出した公約が家計支援です。低所得者層の救済だけでなく、個人消費を呼び起こすことも狙いで、経済対策の意味も込めていました。この公約は実現しています。
その1つが臨時福祉給付金です。住民税非課税の人を対象に支給されるもので、支給額は1人3,000円。全国2,200万人が受給対象となりました。
所得の低い年金受給者を対象としたのが年金生活者等支援臨時福祉給付金(高齢者向け給付金)です。住民税が非課税で、1952年4月1日以前に生まれた1,100万人が対象。2016年度に3万円が支給されました。
高齢者向け給付金と同様に、障害基礎年金や遺族基礎年金を受給している人もこの給付金を受給できます。こちらも支給額は3万円。対象者は150万人です。
このほか、児童扶養手当の月額支給額が第2子以降、増額されるなど給付金が拡大されています。国財政が厳しい中だけに、バラマキとの批判も一部にありますが、公明党の公約が実現したといえるでしょう。
軽減税率は消費増税時に導入が決定済み
公明党が公約のトップに据えていたのは、消費税率のアップ時に実施を目指す軽減税率の導入でした。消費税は景気の影響を受けずに安定して税収を確保できますが、所得に関係なく同じ税率が適用されます。このため、低所得者層の負担が重くなる逆進性が問題になってくるのです。その対策として食料品などに8%の軽減税率を適用し、低所得者層の負担を軽くしようとしたわけです。
対象品目は生鮮食料品と加工食品のほか、定期購読の新聞です。公明党の強い主張で2015年末に導入が決まりましたが、消費増税自体が2019年10月に先送りされたことから、まだ実施されていません。しかし、軽減税率が導入されれば、複数税率に対応したレジの導入やシステム改修で中小企業や小規模事業者は大変です。
そこで、政府は軽減税率対策補助金を新設し、支援を進めています。レジの導入、改修は1台当たり20万円まで、複数台数発注の場合は1業者につき最大200万円が支給されます。システム改修の補助額は上限1,000万円。この公約実現は評価してもよさそうです。
東アジアの外交や原発再稼働で見えぬ独自性
公明党は政権内で独自性を発揮するため、日中、日韓の関係改善や原子力発電所に依存しない社会づくりも公約に含めていました。
安倍政権は対中、対韓姿勢が強硬だとして中国や韓国からたびたび批判されてきました。国内からも関係改善に前向きでないと指摘する声が野党などから出ています。
原発の再稼働は九州電力の川内1、2号機(鹿児島県)、四国電力の伊方3号機(愛媛県)、関西電力の高浜3、4号機(福井県)と続きました。政府は電源多様化の一環としていますが、脱原発派の首長や市民団体は原発推進に再び舵を切ったとみる声もあります。
外交や原発に対する公明党の公約にも、政権内の行き過ぎを調整することで存在感を発揮したい思惑が透けて見えます。しかし、前回選挙後の政権の歩みは公明党の思惑通りに進んでいません。
例えば、東アジア外交で山口那津男代表は2016年、日中韓首脳会談の開催を中国の唐家璇元外相に呼び掛けるなど努力の姿勢を示しましたが、実現できませんでした。連立政権といえども、圧倒的多数の議席を握るのは自民党です。東アジアの外交にしろ、原発再稼働にしろ、自民、公明両党の力関係がはっきりと表れ、官邸サイドの動きに公明党が追随した格好に見えます。
北朝鮮問題で日中、日韓の関係改善進まず
日中は戦略的互恵関係を発展させ、日韓は未来志向で重層的な関係を構築するというのが公明党の主張でした。北朝鮮の核、ミサイル開発がクローズアップされ、米朝交戦の危機が高まってからは、対北朝鮮をテーマに新たな日中、日韓関係を築く好機が来たように思えます。
しかし、安倍政権の行動は米トランプ政権と足並みをそろえる以外、目立った動きが表に出てきていません。ぎりぎりのせめぎ合いが米朝間で続く以上、うかつな行動に出にくいのが実情でしょうが、北朝鮮問題打開の糸口が見つからない間も慰安婦や尖閣諸島、南シナ海の問題で日本と中国、韓国の間で対立行動がありました。
共同歩調を取れる分野で積極的に対応することは、日中、日韓の冷え切った関係を好転させる兆しになったかもしれません。その点で積極的な動きがなかったことを残念に思う声も上がっています。