ニッポン一億層活躍プランの草案が出来上がりました。そこで改めて、このプランも含めて、保育の問題について考えたいと思います。
忙しくて全部読んでられないと思う保育士の方には●印だけを、事業者の方には●と▲をご覧頂ければと思います。
●まず一億層活躍プランの保育の柱は、保育の受け皿整備(プラス50万人)、保育士の処遇改善(安倍政権以降既に7%、平均で年額約25万の改善がなされていますが、更に2%と徐々にコツコツとやる)、多様な人材の確保と育成(資格取得月額5万を2年、再就職20万、補助員支援+αなど)、生産性の向上を通じた労働負担の軽減(補助員雇用支援年額200万強、ICT導入100万+αなど)を柱として9万人の保育人材の確保にあります。順を追って触れていきたいと思います。念のためですが、目的はドライな言い方をして申し訳ありませんが、希望出生率1.8の実現です。目標は2025年です。
具体的な話をする前に、念のため、理解の前提となるH27年の4月から始まった子ども子育て新制度について触れておきます(今年からの話ではありません)。
この制度のポイントの1つ目は、認定こども園や幼稚園、保育所など、従来は別々の省庁の財布から出ていた支援金を内閣府に統一し、統合運用ができるようになった。行政の効率化や利用者申請の簡素化、戦略策定、多様なニーズへの対応が目的です。
2つ目は、認定こども園制度の改善。特に幼保連携型認定こども園。従前は省庁バラバラの監督指導だったものが一本化されたことです。幼保連携型以外でも一部要件が緩和されてます。
3つ目は、小規模保育への財政支援。20人以下でも支援制度があります。家庭的保育でも要件さえ合致すれば公的支援を受けられます。
4つ目は、地域実情に応じた子ども子育て支援で、市町村の判断で実施できる延長保育や病児保育、放課後児童クラブなどのニーズに応じた13の支援事業を法制化していること。
5つ目は、保育の必要性要件の緩和。例えば祖父母と同居してたら駄目だったものが可能になったりしています。
6つ目は、と書き続けると、いくらでもあるので書きませんが、この制度で、認定こども園制度改善によって、地方では子どもが減少しても同制度によって一定規模の子どもを確保してサービスを提供できますし、小規模保育への財政支援では、地方でも子どもが確保できなかったとしても支援受けられ、地域の実情に応じた制度拡充では、地方でも、在宅の子育て家庭に対する支援が提供できるというわけです。
1.保育の受け皿整備
▲今年の目玉は、企業主導型保育事業の創設です(800億円・約5万人)。内閣府直轄の事業で、国が運営主体を公募し(つい先日主体が決まりました)、その運営主体にそれぞれの事業者が応募するもので、会社でも大学でも介護施設でもいいのですが、施設整備や運営費の支援を受けれる制度です。
保育サービスを受ける児童の数はH27年で233万人です。一方需要はと言うと、保育利用申請者数はここ数年、毎年5〜6万人ずつ増加していて、特に前出の子ども子育て新制度導入以降急激に申請者が増えてH27年は急に13万人も増えています。如何に潜在的希望者が多いかを示すデータです。
では受け皿の拡大はどうなっているのかというと、安倍政権発足以降、5年で45万人の受け皿拡大を計画していて、昨年度までに33万人増加させています。つまり、33万人増やしてきたけど、前出の需要がそれだけ増えているので、そのギャップであるところの待機児童は、毎年2万人強残っているのが現状です。
そこで今年は前出の国直轄(市町村関与なし)の企業主導型新制度の5万人を新たに増やすことにしました。つまり、これから市町村には各種の国の支援制度を利用してもらってあと45-33=12万人分伸ばしてもらい(逆に言えば伸びるような支援制度を国が用意し)、5万人を企業主導型で伸ばし、合計50万人にするという計画です。
ところで、気になるのが地域差です。待機児童は東京で7814人、香川で129人(※)です。0人の地方もある。従って待機児童は短期的には大都市が中心の課題とも言えます。直近の大都市の待機児童問題を解消しようとして大都市に施設受け皿を殊更用意すると、中長期的には東京一極集中を加速させます。本質的には地方に移住を促していかなければならないので、制度設計自体の改善の余地はまだまだあると思います。これはとりもなおさず、地方の実情にマッチさせようと権限を地方に分散させたがために、地方移住という視点での最適化が国家権限でできなくなっていることが問題です。ここは今後の地方創生と一億層活躍のすり合わせが必要な部分であると感じています。
▲その他、今年から、保育所の保育配置の特例導入を行います。朝夕は児童が少なくなりますが、その時は保育士2名という要件のうち、1名は支援員研修を修了したものでも可としたほか、幼稚園教諭や小学校教諭でも保育士に替えて活用可能としたり、保育所設置の要件である配置人数を超えて必要となる保育士数(8時間を超えて開所するところはローテーションが必要になるので要件以上の人数が必要になる)については、研修修了者で代替可能になるなどです。
設置基準などで言えば、これまでも、子ども子育て新制度で新しいサービス類型を創設したり(小規模・事業所内・家庭的・居宅訪問型・認定こども園など)、一時預かりサービスを拡充したり(H26年公布決定ベースで延べ440万人なのをH31年に延べ1134万人にする目標)、人員配置を弾力化したり、主体規制の緩和をしたり、に取り組んでいますが更に今後拡充が必要です。
●具体的な今後の計画は、1歳児の職員配置を6:1から5:1に、4・5歳児の職員配置を30:1から25:1に、施設長や栄養士などの職員配置の緩和や延長保育の拡充を行い、後述の保育士待遇改善も併せ、3000億円の予算確保を消費税以外から行わなければなりません。職員配置基準は莫大な財政を伴います。楽になるのが良いのか、処遇が良くなるのがいいのか、と言われれば、最終的には両方だ、ということになりますが、改善のプロセスとして、財政の制約の中でのバランスも考えていかなければなりません。
2.保育士の処遇改善
まず全体像から。全国で何人の保育士がいるかというと、保育所勤務でH25年で37.8万人。これがH29年までに新たに9万人必要となるという試算があります。その内、約7万人(受け皿児童+40万人ベース計算)を給与という処遇改善と従来の資格取得や再就職支援で実現し、残りの2万人は、新たな人材確保制度で実現しようというのが現在の計画です。
保育士の給与はどのように決まっているかというと、まずは公定価格という国が公務員の為に定めた基準価格(A)があって、これに連動して決まる保育士の基準額(B)があって、このBを単価として市町村は事業者に補助金を交付しています。事業者は、Bを払うのではなく、そのBを基準に、自分の財政状況に合わせて支給額を決めます(C)。Aは国全体の景気が良くなり物価や給与が上がれば上がります。そうするとBも上がります。しかしBが上がってもCが上がるかは事業者の財政状況や経営方針によります。
Aは触ることはできないので、Cを上げるには、事業者にがんばってもらうか、Bを上げる必要があります。
●安倍政権になってから、Bは、H26年度に+2.0%。H27年には+1.9%。さらに新制度として処遇改善等加算といって、3%を加算しています(条件によっては10年選手以上は4%)。従って、結局安倍政権以降は+7%程度(もしくは8%)上昇しています。年額にして平均して大体25万円になります。
●今後は更に直近で2%をまずは伸ばす計画です。冒頭書きましたが、コツコツやるしかありません。2%と言うと小さいと思われるかもしれませんが、平均モデルケースの年額にすると約+4万円なので、少なくとも女性の平均給与には到達します(先日の予算委員会で、某党の政調会長が、女性の平均給与を目標にするのは男尊女卑と言ってましたが、ここは全く意味不明でした)。
3.●多様な人材の確保と育成及び負担軽減
人材確保としては以下のものがあります(ほとんどの場合、実施主体は地方自治体でその負担1割なので、自治体が手を上げてくれなければできませんが)。
保育士資格を新規に取得しようという人には、学校入学時に20万、卒業時に20万、月額5万を貸付け、資格取得後に5年間以上保育士として勤めたら返済不要とする制度
保育士の資格は持ってるけど、まだ働いておらず、働きたいけどどうしようと悩んでいる人には、就職準備金を20万円貸付ける(2年以上勤務したら返済不要)制度
働こうかとは思っているけど自分も子どを育てなくちゃならないからと悩んでいる人には、月額54000円を上限に保育料の半額を貸付ける(2年以上勤めれば返済不要)制度
その他、キャリアアップのための研修制度(受ければ処遇が対象変わる)、短時間制社員制度、保育士試験の年2回実施(H28から)など多種多様な支援メニューを用意しています。
▲また、事業者目線では、保育士の職場は書類作成などの負担も多く忙しすぎるから、と人材確保がなかなかできないと悩む事業者には、事業者へ保育補助員雇用支援として年額295.3万円(3年上限)、ICT機材導入補助をシステムは100万円、カメラは10万円、を支給する制度
4.結局は財源だが、自助・共助もしっかりと考えないといけない
既に書きましたが、これからやろうとする1と2のそれぞれ最後に書いた計画には、更に消費税以外で0.3兆円必要となります(その他の制度は実施が決まっていて消費税分0.7兆円は確保済です)。もちろん財源を確保できたからといって少子化に歯止めがかかるかということとは別問題ですが、とにかくこれだけはやり遂げる必要があると感じています。
しかし、そもそも古来の牧歌的な時代は自助・共助がしっかりと機能していたわけで、3世代近居などの政策をしっかりと進め、何でも公助に頼る社会からは脱却していかなければなりません。この部分は先ほど触れた一億層活躍と地方創生のバランスと同時に、真剣に取り組むべき課題です。
※待機児童の定義はH12年以前と、H13〜H26年と、H27年以降で徐々に変わってきています。最大のものは、休職中や育休中のお母さんがH26年以前は市町村の判断に委ねていました。H27年から休職中の場合はカウントすることになりました。しかし育休中の場合はまだ委ねられています。
参考:一億層活躍プラン(案)保育部分