政治家の見極め方 (NHK出版新書)
御厨貴(NHK出版新書)
一昔前まで政治家は、「こちら」とは違う「あちら」の世界に住む人々と思われていました。かつて政治家は異人だった、と回顧する著者は、国民の代表者たる政治家が特別で異質であることを認めて彼我の間に線を引いてしまったら、それは主権者たる国民の自己否定であると断じ、「等身大政治家」が今後増えると予測した上で、政治を特殊視せずに国民は近づいていく必要がある、と説きます。
将来の首相候補、という観点で言うと明らかに決め手のある人材が少なすぎる現在の自民党。この問題に関しては、公共事業をはじめとする利益誘導型の政治が縮小し、党内の派閥が事実上、有名無実となって次世代のリーダーが育たない、あるいは育てられないという現象を著者は指摘しています。
戦後、特に平成に入る前までは、良くも悪くも日本は政治家の強引なパワーで引っ張ってこられました。90年代に入ると政局の混迷が深まり、それをマスコミが大々的に取り上げて「政治のショー化」の度合いが色濃くなっていきます。その極め付きが21世紀になってからの小泉純一郎元首相の劇場型政治です。
著者は日本政治史学を専門とし、テレビ番組「時事放談」の司会者を務めています。その著者が、あるお笑い芸人とトークした時、「小泉進次郎さんも良いですが、やはり芸人たちは、総じて父親の小泉純一郎さんが一番好きです。彼はどうやったら一般大衆にウケるかに通じていて、自分たち芸人が普段やっていることとピタリと重なる」ということを語ります。タレントが政治家になるケースはよくありますが、政治家がタレント的存在になってきた象徴的なエピソードでした。
本書を通じて著者は、現在、そしてこれからの選挙は、旧式の利益誘導型からソーシャルネットワークを駆使した戦いへの移行が止まらないだろう、と分析。既成の文化や価値観を塗り替える可能性を指摘し、「ネットで政治を引き寄せる」ゲーム感覚世代が台頭し、ゲーム感覚でやっていることで今の政治がすごく面白くなる、という予測をしています。政治家も尚一層、新しい試行錯誤が必要となることでしょう。
とはいえ、いくら時代が移ろっても結局は国民が周囲の意思などに左右されることなく、政策の吟味を怠らずに、よく考えて投票するという原則は変わらないと思います。