書評

憲法改正議論の前に健全な「政軍関係」構築を

軍人が政治家になってはいけない本当の理由 政軍関係を考える (文春新書)

廣中雅之(文春新書)

日本国憲法で示されている平和主義は極めて大切な尊重すべき理念です。とはいえ、自由主義神学者であるラインホールド・フーバーは「平和主義は絶対的な愛の象徴であるが、罪を防ぐことはできない」と述べており、また、ほとんどの民主的先進国家は、自国を防衛することは国民の義務とされており、我が国の場合はそれを自衛隊に付託しています。混迷を深める国際社会においてますます国防の重要度は高まっています。そこに政治と、広い意味での軍事との関係「政軍関係」について考察を進めるのが、元自衛隊航空教育集団司令官を務めた筆者によるこの本です。

民主国家では、政治と軍隊の関係は「文民統制」の名のもとに、軍人が政治家となることを禁じるのが原則です。そして文民政治家の判断によって軍隊が動くというシステムとして理解されていると思います。

著者は文民統制に関して、「政軍関係」の概念が矮小化されたものであり、特に日本では「自衛隊の行動を抑制する意味においての役割にとどまっている」と主張します。

2011年に起きた東日本大震災において、政治指導者の多くが政軍関係に関しての理解が不足しており混乱を招いた例を挙げ、普段から政治家と自衛隊の指揮官との間には絶対的な信頼感と理解・活発な意見交換が必要であり、内閣総理大臣はもちろん、防衛大臣・防衛文民官僚などが自衛隊の幹部と積極的に話し合い信頼関係を作る必要性を説きます。

そして、米軍のマッカーサー元帥・パウエル統合参謀本部議長、そして自衛隊の田母神航空幕僚長などによる過去に大きな問題となった事案を例に、政軍関係の要諦として、軍人が政治的問題について異議申し立てをしてはならず、政治指導者も軍の具体的作戦に口を出すべきでない、と指摘。

「民主主義国家の軍隊には、選挙で選ばれた国民の代表者である政治指導者に忠誠を尽くし、かつ、政治的な中立性を保つことが求められている」とし、どのような政治体制であれ、国家・国民のために最大限の努力を怠らないからこそ敬愛される、と米国や英国の例を引いて言及しています。

2015年の内閣府による世論調査では「自衛隊について良い印象を持っている」と答えた人が92%にのぼりました。そして自衛隊隊員も災害救助をはじめ様々な分野で世の中に大きな貢献を地道に続けています。

是非とも、政治指導者と自衛隊との真の信頼関係「政軍関係」を正しい理解のもと進展させてほしいものです。

軍人が政治家になってはいけない本当の理由 政軍関係を考える (文春新書)

前田健作

前田健作

40代男性。茨城県在住。ライター・フォトグラファー。ライターとしては小説アプリにて多数執筆。フォトグラファーとしては「パック」という名前で活動中。日本はもちろん諸外国の政治体制や政治指導者への関心を持って生活しています。