書評

日本が目指すべき健全な民主主義とは

シルバー民主主義 – 高齢者優遇をどう克服するか (中公新書)

八代尚宏(中公新書)

「シルバー民主主義」とは、多くの政治家が当面の選挙に勝つために、若年者よりも、有権者に占める比率が高い高齢者の既得権を守ろうとする作用が強く働く政治のありよう・世の中のことだそうです。本書は全編にわたり、著者が具体的なデータを提示し、それをもとに分析が進められています。

少子高齢化が世界でもっとも速く進んでいる日本では「シルバー民主主義」は飛び抜けて顕著で、若い世代の教育・労働・育児などの問題よりも、高齢者に対する社会保障がかなり優先されている、と著者は指摘します。実際、日本の社会保障費用は、高齢者向けにはGDPの13%を占めますが、子どもに関する家族などへのための給付は1%強に過ぎないそうです。

長寿は、個人的にはもちろん大変好ましいことなのですが、社会的視野で考えると大きな問題となっており、国としても迅速かつ的確な対応が望まれます。

現在すでに高齢者が受けている社会保障の財源は、国の借金(赤字国債)に依るところが大きくなっています。「『借金に依存した社会保障』には限界があり、近い将来に大幅な社会保障費が削減されるリスクを負っていることの理解を高齢者から得るべき」と著者は主張します。「高齢者自身のため、社会保障制度を持続させるためには現行の社会制度・慣行を、現代社会に対応した仕組みへ改革することについて、世代間の利益を調和させる余地がある」とも。

さらに、所得だけではなく資産面を考慮すれば、高齢者は一律に「弱者」とはいえない、と論じ、勤労世代から高齢世代への所得移転を抑制して世代間格差を是正し、「高齢者世代内の所得再分配」に重点を置くことは社会にふさわしい所得移転のあり方であるとして、従来からの年金行政の問題点にも言及、改善案も示しています。

たとえば「日本はもともと、先進国のなかでは高齢者の就業率が高く、労働市場の改革を通じて『70歳現役社会』の実現を目指すことは十分に可能といえる。現役で働く高齢者が増えれば、それだけシルバー民主主義を抑制する効果も期待できる」「同世代の不運な高齢者の最低生活保障は、同時代の幸運な高齢者の負担で主として賄う」など。

そして何よりも、増税などは嫌うが社会保障は削らない、という多くの政治家や国民の考えに対する矛盾については厳しく、「日本の年金行政も複雑な年金制度の情報公開を積極的に進め、国民の支持に基づいた制度改革を進める」ことが迫られていると強調しています。

これからさらに続く少子高齢化に、柔軟に対応できる健全な民主主義を構築するためにはどうしたらいいのかを考えるうえで、歴代内閣において経済財政諮問会議議員を務めた著者の言葉は重みを感じさせます。

シルバー民主主義 – 高齢者優遇をどう克服するか (中公新書)

前田健作

前田健作

40代男性。茨城県在住。ライター・フォトグラファー。ライターとしては小説アプリにて多数執筆。フォトグラファーとしては「パック」という名前で活動中。日本はもちろん諸外国の政治体制や政治指導者への関心を持って生活しています。