書評

これからの保守政治の行方

田中角栄と中曽根康弘 戦後保守が裁く安倍政治

早野透・松田喬和(毎日新聞出版)

ここ数年、静かな「田中角栄ブーム」が続いています。戦後の政治史において毀誉褒貶がここまで強烈だった首相は他にいないでしょう。

ただ過去を懐かしむというだけではなく、彼の並外れた決断力・行動力そして厚い人情が、政治家のみならず一般国民にも薄れてきているといわれる現在において、田中角栄というダイナミズムに溢れた人物に対する憧憬、彼のような政治家を待望する心理が多くの人々の胸に去来しているのではないでしょうか。

角栄と同年生まれの中曽根康弘は2018年5月をもって満100歳。角栄ほどの派手さはないものの、平成に入ってからどうしても小粒な印象が否めない多くの首相たちに比べれば立派な保守本流の大宰相といえるでしょう。

本書は、角栄と中曽根の番記者をそれぞれ務めた著者二人による対話形式で、尋常小学校卒から権力のトップに登り詰めた叩き上げの角栄と東京帝国大学卒から官僚を経て政治の道に入ったエリート中曽根の人生・政治観・言動・その他エピソードを語り尽くす体裁をとっています。

さすがは長年にわたり本人たちに密着して過ごしてきた元新聞記者の対話だけあって、なかなか表に出てこなかった逸話も混じり、大変興味深い内容になっています。そして角栄と中曽根の歴史を追うということは、戦後政治を追うことにも繋がり、戦後保守政治史におけるドラマをも追体験するという楽しみもあります。

印象的な話として、かつての野党のトップたちは角栄や中曽根に対して一目も二目も置き、口を揃えて「質問しがいがあった。面白かった」と述べている点。つまり近年の首相たちが野党の質問にまともに取り合わず、柳に風の体でいるのに対し、国家・国民のためになることであれば真剣に答弁して間違いをただす幅の広さを持っていたという事実は、考えさせられる点です。

さすがに昭和の頃のように大きな成長・分配が望めない昨今ですが「自己責任で頑張れ」という言葉のもとで厳しい生活を送る国民が多数いる現在の若干冷たい印象の政治体制も、今また角栄・中曽根時代の「みんなで助け合って生きていこう」という大らかな姿勢を少しでも組み入れていけば、新しい時代の保守政治もまた新しい可能性が開かれてくるのではないでしょうか。

田中角栄と中曽根康弘 戦後保守が裁く安倍政治

前田健作

前田健作

40代男性。茨城県在住。ライター・フォトグラファー。ライターとしては小説アプリにて多数執筆。フォトグラファーとしては「パック」という名前で活動中。日本はもちろん諸外国の政治体制や政治指導者への関心を持って生活しています。