アベノミクスは成功か、失敗か、正念場を迎える安倍政権

夏の参議院議員選挙でも争点に浮上した安倍政権の経済政策「アベノミクス」。政府が本年度の税収不足を穴埋めするため、赤字国債を追加発行する方針を固めたことを考えると、雲行きが怪しくなってきました。金融、財政政策だけでの景気浮揚に限界が来たともみられ、2017年はアベノミクスが正念場を迎えそうです。

与野党で分かれたアベノミクスの評価

夏の参院選ではアベノミクスが最大の争点となりました。野党側が「アベノミクスが限界にぶち当たっており、新しい経済政策を展開しなければならない」(岡田克也民進党代表=当時)などと批判したのに対し、安倍晋三首相は熊本県熊本市での第一声で「問われているのは、(現在の)経済政策を前に進めるか、低迷した時代に逆戻りするかだ」と反論しました。野党側はアベノミクスの現状を一時的に大企業の業績を回復させたものの、国民の所得増につながらず、失敗に終わったと考えました。

これに対し、与党側は長年、デフレ下にあった日本経済を回復へ向かわせているとみたわけです。選挙戦は与党側の勝利に終わり、アベノミクスが国民の信任を得た形になりましたが、アベノミクスの成否についてはまだ決着がついていないといえそうです。

製造業の業績悪化で税収が不足し、赤字国債追加発行へ

そんな中、本年度に入って円高から製造業を中心に業績が悪化し、税収不足が2兆円近くに膨らむ見通しとなりました。政府は当初、税収の下ぶれを数千億円規模と判断し、赤字国債の追加発行を見送ることにしていました。

しかし、本年度の税収見通しは大きく下方修正されることになったのです。ここまで税収が下がると、予算のやりくりや低金利で浮いた国債の利払い分充当ではとても間に合いません。政府はやむなく、赤字国債を1.9兆円程度追加発行する方針を固めました。年度途中で赤字国債の発行額を増やすのは、リーマンショック直後の2009年度以来7年ぶり。年内に閣議決定する2016年度補正予算に盛り込まれます。日本銀行は黒田東彦総裁の今任期中に2%の物価上昇という政策目標を達成するのが困難と既に認めています。税収減少はアベノミクス限界論を一気に強める形となってきました。

「道半ば」の説明で納得できない実質賃金低下

2012年12月から始まったアベノミクスは当初、異次元の金融緩和の効果で円安に導き、輸出企業の業績を好転させました。それが株高を生み、資産効果も発生させています。さらに、訪日外国人観光客の急増が加わり、長くデフレに苦しんできた日本経済に明るい兆しを呼び込んだことは間違いないでしょう。ここまでは与野党とも評価は一定です。

ところが、ここから先が問題なのです。安倍首相は国の税収が21兆円伸びたとしていますが、消費税増税分の8%を除いた税収水準はリーマンショック前とさほど変わりません。どん底の状態からいくらか、持ち直してきたにすぎないとの見方もあります。そのうえ、実質賃金は5年連続で減少しています。不安定な非正規雇用は増える一方で、貧困層の拡大が社会問題になりつつあります。消費は低迷し、貧富の格差が拡大する現状を、安倍首相の「アベノミクスは道半ば」という言葉で納得できない人も増えてきたように感じます。

日本経済の立て直しが最優先課題に

なぜ、こうなったのかについてはさまざまな意見が出ていますが、最も大きいのは金融、財政政策で時間を稼ぐうちに経済の実力を引き上げる政策を打ち出せなかったからではないでしょうか。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた日本経済は失われた20年の間に、国際的地位の低下を続けました。長く首位をひた走っていた国際競争力ランキングは2015年で6位です。1人当たり国内総生産(GDP)は26位、アジアでもシンガポールや香港に劣っています。名目GDPでは米国、中国に次ぐ世界3位に位置しますが、2位の中国とはダブルスコア以上の差が付きました。特にITやICT分野は米国、欧州、中国の間で取り残され感さえあります。もはや経済大国でなくなりつつあるのに、安倍政権の対応は金融と財政政策に特化しすぎたようにも見えるのです。

アベノミクスが一時的成功に終わるのか、新たな未来を拓くのかは、日本経済の実力をどう引き上げていくかにかかっています。一刻も早くその道筋を見つけない限り、社会に明るさは戻らないように思えてなりません。

高田泰

高田泰

50代男。徳島県在住。地方紙記者、編集委員を経て現在、フリーライター。ウェブニュースサイトで連載記事を執筆中。地方自治や地方創生に関心あり。